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「ちょっと家の事情で今日から寮に入ることになったの。初めて家を出るから不安で……ごめんなさいね」
となりの席に座る桐生さんに話しかけられて、あたしは取り繕った笑みを浮かべた。ここでは大口を開けて笑うなんて言語道断。さすがに幼稚部から通ってるから慣れてるけど。本当の友達なんていやしない。
桐生さんの家はいくつかの会社を経営しているらしく、何度かパーティーでも顔を合わせたこともあって話すようになった。
家のしきたりが緩いのか髪はショートボブで、あまりお嬢様っぽくは見えない生徒だ。話し方を見る限りでは取り繕ってる感じもしないから、あたしみたいなのとは違うだろうけど。
「寮に? それは大変ね。規律が厳しいと聞くけど、天羽さんは大丈夫そうよね」
もうね~全然大丈夫じゃないのよ、これが! 聞いてよー! とか言えたら楽なのになぁ。ため息を必死に飲み込んであたしはもう一度桐生さんにありがとうと微笑んだ。
「そうだといいけれど。寮の皆さんとも打ち解けられるように頑張るわ」
帰りの会が終わり、皆各々迎えの車を待っている頃、どこからか黄色い悲鳴じみた声が聞こえた。
「有馬さまっ」
あぁ、学園の王子様がお帰りなのね。あたしには関係ないけど。
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