届かないメール

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その後も毎日足を使って、夏奈の軌跡を辿る。一ヵ月後には思い出を綴ったノートが十冊に増えていた。それらを何度も見返し、一つ一つを短い文章に表して行く。新たに疑問が浮かび上がる度、同じ場所へと足を運んだ。たった一行、一文字に納得できるまで妥協は許さない。 さらに一ヵ月が経過し、夏奈の人生の証が凝縮され、詩となり、唄となって、歌になった。 机の上に置いてある夏奈から貰った水色の花瓶。その中で、小さな可愛らしい向日葵がゆらゆらと揺れている。これで準備は整った。後は最後の仕上げだ。 暗くなった道を走り、急いでフラワーショップへと向かう。閉店ギリギリで駆け込むと、水希が売り上げの集計をしていた。 「和也さん、どうしたの?」 夏奈がいなくなって、まだ一カ月余り。俺の考えが正しければ、スマートフォンは処分されていないはず。 「夏奈のスマホってどこにあるんだ?」 「お姉ちゃんの? 私の鞄の中に入ってるよ。たまにだけど電話がかかってくるからね」 「と言うことは、まだ解約してないんだな? 見せてくれ」 持ち主のいないスマートフォンを手に取る。充電は満タンだ。夏奈の知り合いからかかってきた時に説明する為、水希がこまめに充電しているのだろう。 「なあ、このスマホを一日だけ貸してくれないか?」 「うん、いいけど」 「ありがとう。明日の夜には必ず返すよ。じゃあな」 水希の肩をポンッと叩き、軽快な足取りで店を出た。その後は部屋に閉じこもり、明日の準備を始める。 用意した物は向日葵のギターにピック、向日葵の花束を入れた空色の花瓶、夏奈のスマートフォン。それと、想いを纏めたノート。 準備が終わり、目覚まし時計を日の出前にセットしてベッドへ潜り込む。 夏奈に会える事を願い、ゆっくりと瞳を閉じた。
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