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足を止めたのは始まりの場所。
幼い頃から変わらない、見渡す限りの向日葵たちに囲まれている。そこへ、空色の花瓶と夏奈のスマートフォンを置く。
「朝早くから何をしてるの?」
背後から掛けられた声が夏奈にそっくりで、驚いて体が浮き上がった。
「みっ、水希? お前こそ、こんな早くから何をしてるんだ?」
「何をするのか気になったから、家を訪ねてみたのよ。そうしたら、おばさんが向日葵畑に行ったって教えてくれたの」
「ああ、なるほど。久しぶりにここでライブをやりたくなっただけだよ。そう言えば、一回だけ水希も聞きに来たよな。興味無さそうだったけど」
「今も興味ないわ」
「そこまでハッキリ言わなくても……まあ、いいや。水希は夏奈のスマホの未送信ボックスを見たか?」
「和也さん宛てのメールがたくさんあったよ」
「そのメールは、全て俺のスマホに送信しておいた。実は挫折しかけた時があって、夏奈にメールを送るなって言ってしまったんだ。田舎に帰るって弱気な心を捨てようとしてな。でも、夏奈は届かないメールで応援し続けてくれていた。今思えば、何であんな事を言ってしまったんだろう? 夏奈のメッセージなら力になるって分かってたはずのに……だから、今更だけどメッセージを返したいんだ」
少しだけ口角を上げ、空色の花瓶を見つめる。
俺の目線を追った水希が、両手で口元を押さえ、目を大きく見開いた。
「……嘘」
「その反応は、水希にも見えるんだな」
二人の視線の先で、透明な色の夏奈が花瓶の横に置いたスマートフォンを見つめていた。まるで、メールの返信を待っているかのように。
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