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全てのメールを返信した後は、地面に直接座りノートを開く。
「それ、何なの?」
「詩を書いてきたんだ。前半のパートは夏奈の残した詩を形にして、後半のパートは俺の想いを詩にした」
それは、苦しかった頃に夏奈を想って作った[向日葵]ではない。
思い出の跡を辿り、風にそよぐ向日葵を夏奈の笑顔に重ねて作った[向日葵のLove Song]。
「今から、この詩にメロディーを付ける。夏奈、ちょっと待っていてくれ」
自然と零れた『夏奈』の呼びかけに、水希は空色の花瓶へと視線を移した。透き通った夏奈は消える事無く、楽しそうに目を輝かせている。
「私も一緒にいていい?」
「ああ、勿論だよ。でも、敷物や椅子は無いぞ」
「そんなのいらないわ。お姉ちゃんは、いつだって泥だけでたくさんのお花の世話をしてた。昔は汚いなあって思ってたんだけど、今なら分かる。そんなお姉ちゃんが、誰よりも一番綺麗だったんだって」
水希は俺の横に腰を下ろす。可愛らしいチェックのスカートが泥に汚れても、全く気にする素振りを見せなかった。
「そのノートに書かれた詩、私にも見せて」
「歌になる前の状態で見せるのは、ちょっと恥ずかしいな」
「いいから、早く見せて。私も一緒にメロディーを考てあげるから」
「分かったから、焦るなって」
簡単なメロディーは考えていた。それをベースに、向日葵のギターで夏奈に合った音を探し始める。
気が付けば、辺りは夕焼け色に染まっていた。
「和也さん、これで完成なの?」
「ああ、完成だ。なあ、水希……向日葵の願いって覚えてるか?」
「向日葵の願い? 私が小学生の頃に流行った都市伝説よね。確か、この向日葵畑の向日葵全部と友達になったら心からの願いを一つ叶えてくれる……だったかな」
「子供の頃に、この畑の向日葵全部にお願いして回った事があるんだ。本気で信じてた訳じゃ無いけど、もしかして何て思ってさ」
「何をお願いしたの?」
「前に病院で言ったよ」
「覚えてない。勿体ぶってないで教えて」
「俺の歌で夏奈を笑顔にさせたい……ってね」
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