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「こら、葵。何をやっとるんだね?」
「あっ、先生。ちょっと待って……」
「ほう、これはポエムか?」
教室中に、どっと笑いが巻き起こる。取り上げられたノートには、自信作の詩が書かれていた。
「ポエムじゃないですよ。歌を作っていたんです」
「歌? よく分からんが、それは授業よりも優先するべき事かね?」
「うっ……それは、その……」
「まったく、妹の日向は優秀なのに、君も少しは見習いたまえ」
一瞬静まり返った教室に、もう一度笑い声が上がる。ノートで頭を叩かれ、授業が再開された。
みんなニヤニヤしながら俺に視線を送ってくるけど、約一名、赤面して俯く女子がいる。双子の妹の日向だ。
暫くして、スマホがブルブルと震えた。ラインの新規メッセージを確認すると『変な事して目立たないで』なんて、可愛らしさの欠片もない文字が日向から届いている。
次は見つからないようにやるからと返信したら、ここまで聞こえてきそうなため息を吐いていた。
つまらない授業を聞くより、一つでも多くの歌を作りたい。だから、それをやめる選択肢はない。でも、変わり者の俺が普通に学園生活を送れているのは、日向のお陰という事も分かっている。
明るくて元気で人気者の日向の兄だからこそ、クラスメイトは普通に接してくれているのだろう。
優秀な妹の顔を立てるべく、今だけはノートを鞄の中へ投げ入れた。だからといって授業を聞く訳でもなく、どうすれば見つからずに歌を作れるのか考えてみる。
俺は物事に集中すると回りが見えなくなる、それが原因だろう。それを踏まえて……
「葵、帰らないのか?」
時計を確認したら、既に下校時間だった。
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