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次の日の朝、テーブルの上に置き手紙だけを残してカナは消えていた。わかっていたこととはいえ、もう何日かはいるとばかり思っていた俺は、突然の別れに僅かに胸の奥が痛んだ。俺はスーパーのチラシの裏に書かれた手紙を手に取った。
なかなか夏らしいことをできたのではないでしょうか?少しでもナツキさんの夏の思い出になっていたら嬉しいです。僕は楽しかったですよ。センチメンタルな気持ちになってしまうので、さよならは言いません。また、いつかの夏に会えたらいいですね。
P.S. お隣に住んでる美人のお姉さんにちゃんとかき氷機返しておいて下さいね
強引だけど気づかい屋で、大胆なだけのように見えて繊細なところがあるカナらしい手紙だった。家に転がり込んできた時はどうなることかと思ったけれど、短い時間の割に随分と楽しかったように思う。まるで嵐のような女の子だった。セミだけど。そして嵐が過ぎ去った今、確かに俺は寂しいと感じている。
今までの日常に戻っただけのはずなのに、ゴロゴロしている時間が惜しくて、なんとなく、俺はスマートフォンでセミについて検索してみた。生き物の生態を調べるのなんか小学校の自由研究ぶりだ。
『よくセミの寿命は一週間と言われていますが、実際は成虫として1か月程度は生きられます』
俺は知ってるぜ。これはカナが言ってたやつだな。俺は横になりながらスマートフォンの画面の上で指を滑らせた。
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