0人が本棚に入れています
本棚に追加
『なぜセミの寿命は一週間と言われているのでしょう?それはセミが木の樹液以外のものをほとんど食べないからです。その為、飼育しようとしても餌にありつくことができず、1週間くらいで大抵のセミは死んでしまうのです。また、セミは暑さに弱く、真夏に羽化したセミは2週間ほどで死んでしまうこともあります』
カナお前、もしかして人間の姿になっても樹液しか食べられなかったのか?それに夏生まれの虫の癖に暑さに弱いのか。クーラーのない俺の部屋はさぞしんどかっただろうに……などとやるせない気持ちになっていた俺の目に、ある一文が飛び込んできた。
『セミはどの種類であっても、鳴くのはオスだけです』
もしかして俺は盛大な勘違いをしていたのではないだろうか。そう思いながらそれに続く文章を追いかける。
『セミのお腹の中には鳴き声を出すための腹弁と呼ばれる器官があります。これはメスにはない器官です。これを震わせることによってセミは大きな音を出しているのです。口から鳴き声を出しているわけではありません』
カナの話を信じるのであれば、セミが人間の姿をして現れた時点で、もう腹弁も何も関係ないのかもしれない。だが、ドアスコープから見たカナを女の子だと勝手に判断したのは俺だし、カナの口から自身の性別に関する話は一言も聞いていない。それは俺が一人称が「僕」であるカナを女の子だと思い込んで何の疑問も抱かずに接していたからだ。やけに胸がえぐれた子だとは思っていたが。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!