夏の音が聞こえる

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 元はセミだとしても人の姿をしている女の子に対してセミと呼ぶのは気が引けたので、セミ娘のことはカナと呼ぶことにした。どうしてカナなのかと聞かれたので夕暮れ時にカナカナと鳴くからと答えたらそれはヒグラシだと怒られた。どうやらカナはアブラゼミらしい。しかし当然ながら「アブとかジジとか出すもの出すもの可愛くない」という理由で却下され結局カナに落ち着いたというわけだ。勿論、カナがセミであるということは二人だけの秘密だ。  「夏らしいこと、というわけで一緒にお祭りに行きましょうナツキさん!」  カナの提案で俺たちは近所の神社の盆踊り大会に行くことになった。知人に見られても後々面倒なので、あたりが薄闇に包まれた頃に俺達は家を出た。サンダルをひっかけて二人並んでペタペタと神社までの道のりを歩く。  「よく今日が盆踊りだって知ってたな」  「ここに来る途中、電柱に止まった時に張り紙してあるのを見たんです!それで丁度今日だったので覚えてました!」  「そういう話はあんまり大きな声でするんじゃないぞ」  この町で一番大きな神社だけあって、神社周辺は多くの人で賑わっていた。  小学生の頃は、よく友達と一緒に近所の夏祭りに行ったっけなぁと、はしゃぎすぎてヨーヨーを破裂させている男児を見ながら思った。立ち並ぶ屋台に、ピンクと白の提灯が揺れ、普段見慣れない浴衣姿の人々が行き交う。人混みは大嫌いだが、この非日常空間にはいくつになっても心がうきうきしてしまう。あちこちの屋台からおいしそうな匂いが漂っている。  「俺はたこ焼き食べるけど、どうする?」  俺は近くにあったたこ焼き屋の屋台を指差した。  「いえ、私はセミなのでたこ焼きはちょっと……あそこの木の樹液、吸ってきても?」  「今はやめて」  俺はカナにあんず飴を与えた。「これはどことなく樹液感ありますね」と言いながらカナはあんず飴を舐めていた。
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