夏の音が聞こえる

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 射的、型抜き、金魚すくい……数年分の夏祭りを回収するべく俺はカナとあらゆる屋台を回った。一人行動が得意な俺だが、一人夏祭りは流石にする勇気がなかったので、久々のお祭り感に妙にハイな気分だった。そういえばそうだった、俺は大好きだったのだ。祭りが。  「見て下さいナツキさん!あのくじの景品を!」  そう言ったカナの示す方向を見ると、そこにはつい最近発売されたばかりの家庭用ゲーム機の箱があった。  「ああ、ああいうのはな、本当は当たりが入ってないんだよ。だからあのゲーム機が欲しくたっていくらくじを引いても絶対に当たらないようになってるんだよ」  俺は強面の屋台のお兄さんに聞こえないように、こっそりとカナに耳打ちした。  「ええ!そんなの詐欺じゃないですか!……いや、わかりませんよ、もしかしたら沢山のくじの中にたった一つだけ当たりが入ってるかもしれませんよ。宝くじだって買わなきゃ当たらないんですから。一回だけ引いてみませんか?」  宝くじとは違うんだけどなぁと思いながらも、カナの目力に負け、俺は500円を差し出した。カナは必要以上に箱の中を掻き回した後、赤い三角くじを一つ取り出した。  「だから言ったろ?あんなのほとんどが一番低い5等で1等どころか2等3等だって入ってるかどうかも怪しいんだから」  カナの引いたくじの結果は5等で、この中から好きなものを一つと言われても選ぶのに困るような景品ばかりだった。俺は意気消沈するカナの代わりにぶよぶよしたゴム製のヨーヨーのようなものを選び、くじ引きの屋台を後にした。  「ほら、くじの景品やるから元気出せって。見ろよこれ、光るんだぞ?柔らかいし目がついてて可愛いだろ?なんに使うのかはわからないけど」  そう言いながら俺は、そのピカピカと光るヨーヨーのようなものをカナの目の前に差し出した。カナはそれを受け取ると、徐々に顔をほころばせた。  「くじの結果は残念でしたけど、これはありがたく貰っておきますね。ナツキさんが選んでくれたものですから」
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