0人が本棚に入れています
本棚に追加
家に帰って早々、「プールに行きましょう、ナツキさん!」とカナが言い出したが、プールは迷うことなく拒否した。そんな急に言われても水着がないから、と言って断ったが、運動しない鍛えもしない日光に当たるのも嫌いな現代のもやしっ子代表こと俺は人前で脱げるような体形ではないからだ。カナは不服そうだったが、そもそもお前は水着があるのかと。今着ている服も上下俺のじゃないか。流石に下着を用意することはできないのでお金を握らせてコンビニに買いに行かせたけれども。いや、よく考えたらセミなんだから着替えなんかどうだっていいのかもしれない。
昼はラジオ体操でもらったそうめんを茹でて、甲子園を見た。自分で買うのはカップ麺ばかりで、そうめんを食べるのは久しぶりだった。
「なんか懐かしいな。中学生の時、友達の家でそうめんご馳走になりながら見てたんだよ、甲子園」
俺はつるつると麺をすすりながら昔のことを思い出していた。
「ナツキさんにもそんな時代があったんですね」
カナは扇風機の前を陣取ってあーとかうーとか言っていた。お腹が空かないのだと言ってそうめんは食べなかった。
「俺だって別にずっと友達がいなかったわけじゃないからな?小学生の時も中学生の時も、高校生の時だって友達はいたよ。ただ大学進学で東京に出てきて、友達を作るタイミングを見失ったっていうか……」
「なんだ、それならお友達に連絡すればいいじゃないですか!折角の夏休みなんですから実家に帰省して、地元のお友達と会ったりしないんですか?」
「みんな県内で進学してさ、俺だけ東京に出てきたんだ。あいつらから帰ってこないのか、とかそんな連絡もないし、俺の居場所なんかもうとっくに無いような気がしてさ」
「ナツキさんって案外女々しいんですね。そんなのうじうじ悩んでないで連絡一本入れれば済む話じゃないですか」
そう言うとカナは器用にスマートフォンを操作して、勝手に俺の高校の友達にメッセージを打ち始めた。
「あっちょまっ」
俺がカナからスマートフォンを奪い取るよりも先に、カナはメッセージを送信してしまった。もしこれで既読スルーされたら心が折れてしまう。メッセージの送信完了画面を見て、俺はふて寝した。
最初のコメントを投稿しよう!