下・委ねられた真実

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”歴史を紐解く鍵となる記憶”を持ち、”歴史を継承するまで使命を全う”する少女の存在とその名前。 ー夜明け前の森林最深部ー レムは瀕死の生き物たちにコロンに与えたものと同じ調合薬を使い、救護を続けていた。 一匹、また一匹。施しを受けたレムに対し、爪や牙を立てるものはいなかった。 そして、目の前に横たわるミキュオンの亡骸をじっと見つめるレム。 レムは断片的な過去を振り返る。 負傷する男を解放する若き日の記憶。 「おい、レム!聞いてくれ!俺は竜を見たんだ!」 「ならギルドに討伐の依頼を…」 「いや…それは大丈夫だ!きっとあの竜は…」 古竜と初めて対峙した時の記憶。 「竜の涙を得てどうする人間よ」 「賢者の石を作る。あの男の人には死んではいけない理由がある。未来の命を守るために戦い続ける」 「大老。賢者の石って何?」 「お前の死霊術のようなものだ。して、生きる者の理を破ってでも、必要な命なのか?」 「彼の信念は…この世界や全てのあらゆる生命を救う」 初めて錬成術が失敗した日の記憶。 「どうしてよっ…!確かに錬成したはずなのに…!」 「浅はかな人間よ。竜の涙は魂の意思によって肉体を呼び覚ます効力がある。言うなれば、魂と肉体を結合剤。しかし、それは魂が帰着を望む場合に限る」 「じゃあ…、この私の努力は無駄だったの…?」 「其の者は死ぬことを受け入れていたのだよ。生命の理に目を背けてはならぬ。その力で意志を守るのが唯一の弔い」 浅くため息をつくレム。 腰から小さな結晶石を取り出し、杖で錬成陣を描く。 するとミキュオンに結晶石が反応する。 「…きゅ…」 息を吹き返したミキュオンに調合薬を飲ませるレム。 「なんだ…私の錬金術は失敗していなかったのね」 「きゅ!きゅ!」 「…よかった」 イスリーダ帝国に朝が訪れる。 ーレイグラード、山猫亭ー レイグラードは突然の雨により王宮から突如出現した魔獣で溢れかえっていた。 それは後の調査により、竜の加護が鎮魂晶を元の姿へと戻したと報告された。 逃げ惑う市民と逃げ惑う魔獣の対処を指揮したのは、王宮内にいたガナンとギリアムであった。 彼らの活躍は市民からの支持を受け、素性不明の男に唆された軍部は組織構図を改めることとなる。 しかし、それは国の中に騎士団の弾圧を企てる派閥も生むことになる。 その状況に皇帝皇女は更なる国力を求めるようになってしまうのであった。
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