0人が本棚に入れています
本棚に追加
「…戦うために…守るために…生命の力…を利用するなんて…間違ってる…!」
レイアスの結論であった。
何かを得るために同等の代償を払ういう理。
その代償があらゆる種族の生命力、すなわち命そのものだとするならば、レイアスはその力を否定する。
その想いを受け止めると竜は静かに息を瀕死状態のレイアス、コロン、そして少女に吹きかけた。
「昔、人族に竜の涙を託したことがある…お前と同じ目をした女だ」
続けて竜はレイアスに語りかける。
「その女は”賢者の石”を作るのに、生意気にも竜の涙を渡せと言ってきた。儂は問うた。理に背いてまで守るべき命なのかと。すると女は答えた」
ー 守るべきは、尊い命を守れる未来 ー
「儂は長らくラクトヘルムの情勢を傍観してきた。種族同士が争い、同族の争いも絶えぬ時代が支配している。女は遠い未来にある命を守るために、理に背こうとしたのだ。その意思がお主へと伝わっていたのだな…」
その女は誰かは定かではない。
しかし、レイアスには竜の言うことが何と無く理解できた。
「た、大老っ…!」
少女が起き上がり、弱々しく歩み寄り竜の懐に抱きついた。
その少女を竜の翼が優しく包み込んだ。
「大老…っ!大老!!」
「我が娘…。死霊術を使ったのだな…大きな犠牲を払って何を得た?」
「…何も…」
「大いに反省せよ…大馬鹿娘よ…」
そこには勇ましい少女の姿ではなく、ただの一匹と涙を流し続ける一人の親子の姿だった。
すると竜は再び、レイアスに話しかける。
「主よ。勝手な申し出ですまないが、この娘のしたことを寛容に受け止めてはくれないだろうか…」
「俺は…」
「この娘が生者を鎮魂晶に変え、死霊術によって我が骸にそれを注ぎ、力を生み出した。その中にはお主ら人族の魂もあっただろう。取り返しのつかぬことをした」
竜は続けて語る。その少女と過去と未来への希望を。
「この娘は精霊族と竜族の混血。生者の結晶化や死霊術の素質も兼ね揃えているのはそのためだ。しかし、その血筋ゆえに故郷を追われ、あらゆる種族から忌み嫌われ、安寧の地を探して生きてきたのだ」
「だから、俺たちのこと…人族のことを嫌ってたんだな…」
「儂はある男の遺言を託され、その男こそ、この娘の肉親である聡明な我が友なのだ。男の遺言には”歴史を紐解く鍵が我が娘の記憶にある”と云う。また、精霊の加護を受けて”歴史を継承するまで使命を全うする”と…」
最初のコメントを投稿しよう!