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事実と可能性をはっきりと分けるレムの言葉にその場の全員が耳を傾ける。
次第に静寂だった会場はざわめき始める。
それらの事実と可能性はギリアムにも動揺を招いた。
「というと、その竜の涙と呼ばれる物質があればこれらの技術はイスリーダ帝国の手中にあると…そう考えて良いのだな?」
一呼吸置いてレムは答える。
「はい」
会場はどよめき立つ。
そんな中でも将官は続けてレムに尋問を続けた。
「して…自身の錬成術をもってしても竜の涙は錬成できんのだろうか?」
「可能です」
「なんと…!」
会場全員が息を飲む。
「しかし、その錬成に必要なのは…竜そのもの…しかも知能の高い竜に限定されます」
続けてレムは自身の知識を語る。
その言葉に静まり返った会場の全員が注目する。
「これは逸話ではありますが、現在のラクトヘルムの地形を形成したのは5匹の古竜という伝記があります。太古の竜が大地を統べる時代、竜族は天変地異によって絶滅の危機にさらされた。そこで種を守るために5匹の古竜は、仲間の竜族を鱗のように硬い結晶へと変化させた。生き残った古竜は安寧の来たる日に慈愛の涙を流し、仲間を元の姿へと戻した」
「うむ…話は簡潔に」
「失礼しました。年月が経ち、地底に埋まった結晶が竜の肉体に変化したために地盤沈下を起こし、湖を形成したというのがラクトヘルム地質学の見解です。渓谷や洞窟を根城にする竜が多いのもその為だと思われます」
「そうなのか…?ノモリ博士」
将官は隣を向き、勲章のない軍服を着た男に尋ねた。
男は微動だにせず返答する。
「その通りです。地質学の界隈では有名な話です。加えますと、遺伝情報学の知見では太古の竜だけが竜の涙を作り出せたわけではありません。すべての竜族に素養がありますが、この女の言う通り、力を引き出せるほど知能の高い竜にしか成し得ないでしょう」
ノモリと呼ばれる男は淡々と説明する。
「ふむ…そうか。すべてノモリ博士の仮説通りであったな…」
「…!!」
それはレムを動揺させた。
「無礼を承知で申し上げますが、すべてご存知だったのですか…?」
「うむ。ノモリ博士は地質学・遺伝情報学の他にも精神医学や歴史学など、あらゆる知見の持ち主だ。博士は自身の著書をイスリーダ帝国に献上すると同時に軍に貢献してくれているのだよ」
「…それはそれは…随分と博識ですのね…」
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