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「あの馬鹿なら今頃、王宮で門前いばらいでも受けてるんじゃない?」
「あはは…レイアスくんらしいですね!その純粋な無鉄砲さ」
「その子は新人の冒険家さんみたいよ。ギルドから連れて来たんだから」
するとエストは感心したように少女を見る。
「へぇー、随分と鍛錬されてきたんですね…お強い!ぜひ、闘技場にいらして腕を見せてください!私はそこで受付をしていたエストと言います」
何も知らないはずのエストの観察力にイリスは困惑した。
「…わかるんですか?」
「えぇ!私がどれだけあそこで猛者達を目にしてきたか…強者は目が違いますから」
「エストさん…今日…お仕事は…?」
厨房から聞こえる油の跳ねる音。
その調理音よりも大きな声でソフィは言う。
「なーんにも知らないのね!エストはね…」
「一時解雇です!反逆者の娘は職も奪われてしまうそうです」
そう笑って答えながらティーカップを口へ運ぶエスト。
「反逆者って…ガナンさんが何かしたんですか?」
「父のことですから余計なことに首を突っ込んだんでしょう…それよりギリアムさんやレムさんが心配ですね」
「ガナンさんもでしょ…!どうして連れて行かれたかも説明がないままね!」
ソフィはそう言いながら、イリスと少女をエストが座る席へと誘導した。
「一体、どうしちゃったんですか…」
「みゅぅ…」
イリスの不安がその一言に凝縮されていた。
この少女のことをどこまで話していいのかを思案する。
エストはそんなイリスを見て声をかける。
「それは私たちも同じです…。街の人も混乱している…そんな時だからこそ!私は父たちを信じて待っています」
「私はこれね!」
ソフィはテーブルに熱々の一皿を運ぶ。
「今は料理でもてなすしかできない。まぁ、自分ができることをやるだけね」
「みゅぅ?♪」
「ソフィさん…これは…」
「山猫亭スペシャル!特大ドラゴンステーキっ」
「…っ!!!」
その言葉を聞いた少女は初めて反応を示す。
「…いらない…こんなもの…」
それを聞き逃さなかったソフィは怒りに怒った。
「何あんたっ!もしかして菜食主義なわけ?それとも本物じゃないと嫌な美食家タイプ!?いいから黙ってひと口?」
「まぁまぁ!!ソフィさん!一応、年頃の女性なんですから…!」
怒れるソフィを苦笑いしつつも宥めるエスト。
そのテンションとは真逆に、一点を見つめるだけの少女。
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