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こんな中、
「やばいなトイレ行きたい」
と秀くんが言い出すと、
シーンとしていた体育館が
笑い声と話し声でざわつき始める。
この状況で、そんなことを言える
秀くんは度胸があるなぁと感心した。
「おまえ俺を負ぶえ」
と秀くんが隣のクラスの隼人に言う。
「は?」
「おまえが言ったことが現実化したらどうする。
早くしろ」
隼人は仕方ないような顔をして秀くんを負ぶった。
「おまえも鞄持って来い」
と言われた私も逃げ出すように体育館を出た。
少しして二人が男子トイレから出てきた。
「別に我慢できたけど、
どっちにしろ逃げ出せてよかったな」
と秀くんが言った。
「なんで俺を巻き込んだ」
鋭い目で隼人が言うと、
秀くんも負けずに鋭い目を向けた。
「あんな所で俺のこと馬鹿にしやがって。
おまえみたいなヤツ、悪者になるだけだぜ」
秀くんは隼人に怒るどころか
逆にかばったの?
かばったのは隼人だけじゃない。
機転を利かせた秀くんに私も救われたのだと気付く。
秀くんは本当に優しい。
隼人の目付きが穏やかになった。
「悪かった。
けど秀を馬鹿にしたんじゃない。
気になってる女子を笑わせたかった」
「あー、なんか分かる。俺もそうだよ。
常に女子を笑わせたい。っていうか笑顔が見たい。
でもさ、みんな笑ってるのに、
好きな子だけあんまり笑ってなかったりすると
へこむよな。
あげくに『面白くないもん』
とか言われたらショック」
「秀は女子をいっぱい笑わせてたし、
それが悔しくて嫉妬したんだ。
ごめん」
「まあ許してやるよ」
「隣のクラスだから感じるんだ。
おまえが戻ってきて賑やか」
「へーそうなの?
居ないときは知らないし」
確かに秀くんが居ると賑やかだ。
秀くんは特別口数が多くはないのに、
みんなを笑いに惹き込むのが上手くて、
クラスの中心的存在だと思う。
「無神経なこと言ってごめんね」
と隼人は私にも謝った。
隼人は嫌なやつだと思ってたけど、
案外、素直かもしれない。
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