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不良に目を付けられたら怖いので、 「春に転校してきた 立石秀美(たていしひでみ)です。よろしく」 と愛想笑を浮かべながら自己紹介をした。 すると白い歯を見せて微笑んでくれたので 安心した。 「漢字どういう風に書くの?」 私は名前が記入してある教科書を取り出して見せた。 「やっぱり。一緒一緒。俺もこの字」 「秀」という字を指差している。 「俺たち縁があるのかもね」 そういったキザっぽい発言は怪しく思う。 まだ害のない男子だという判断を下すには早いが、 不良でも気軽に話してくれるのは嬉しい。 明るめの髪色の、 やんちゃな男子の五人グループが こっちを見てると思ったら、 「秀(しゅう)! すげえ久しぶりじゃん」 と言って近づいてくる。 名前が判明したから「秀くん」 と呼ぼう。 立ち上がるそぶりの秀くんは、 意表をついて突然、私に抱きついた。 男子たちの目の前で……。 なによ、この展開。 私は困惑して固まった。 美形男子だけに受け入れるべきか? これは受け入れるか受け入れないかの問題ではない。 何の前置きもないところからの急展開は、 少女漫画でもあり得ない。 息を弾ませた秀くんが 「すまない」と言った。 謝るくらいなら普通こんなことしないでしょ。 やたらと距離が近かったのは、 最初から抱きつくのが目的? やはり不良のやることは信用ならない。 秀くんの吐息がかかる。 この子、変態? 「何するの、離れてよ」 私は秀くんを跳ね除けようとした。 だが秀くんはプルプルと手が震えるほど力を入れて 私にしがみつく。 秀くんの鼓動が早い。 つい先日、 一歳の甥っ子の空(そら)くんを抱っこしてお風呂に入ったとき、 怖がった空くんに しがみつかれた瞬間と、 なんとなく似ていたせいか、 胸がキュンとなって愛しい気持ちになった。 秀くんは赤ちゃんと、さほど変わらない 無害なかわいらしい男の子なのだと肌で感じとった。 「押し倒されたくなかったら動くなよ」 と秀くんは命令口調で言う。 言うことはちっともかわいくない。
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