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秀くんの友達グループが教室に戻ってきた。 濡れたズボンを見て、 「何じゃそりゃ。トイレに間に合わなくて、お漏らし?」 と廊下まで聞こえるくらいの声で、 オレンジ色の髪の男子がからかう。 「悪い冗談はよせ。お茶をかけられた」 「安心したぜ。本当に漏らしてたら、 かわいそうで笑えねぇし」 「おまえなら笑うって」 と秀くんが言う。 「だよな」 と他の男子が言う。 秀くんはタオルとジャージを持ち、 教室の後ろの隅っこでズボンを脱ぎはじめた。 するとチャイムが鳴って教室に 国語の先生が入ってきた。 強面の男の先生なだけに生徒たちは急いで席に着く。 「後ろでズボン脱いでる男子、 体育の授業でもないのになぜ着替えてる。 早く席に座れ」 注目を集めた秀くんは、 女子生徒の前でもパンツの姿で堂々としている。 この子、天然? マイペース? 「濡れたから着替えてるの」 「なんだ秀か。 どうした? なにがあった? 大丈夫か?」 先生は秀くんと分かると真剣に心配する。 「変な疑いかけないでよ。お茶かかっただけだし」 「そうか。なんでもないならいい」 先生は嬉しそうな顔をした。 「学校来れるようになって良かったな」 「先生、今、俺に話しかけないで。 パンツ脱ぐところだから、みんな見るなよ」 教室中が大爆笑。 そう言われると嫌でも見るでしょ。 秀くんは真顔でタオルを腰に巻きつけている。 「これじゃなかなか授業が始められない。早くしてね」 先生は苦笑いで言った。 「先生、秀は体力が回復してなくて 何するにも時間かかるんです。 気にせず授業を進めてください」 お漏らしとからかっていたオレンジ髪の子が 秀くんを気づかって言った。 本当は優しいのね。 「そうだったな。秀のことは朝の会議で聞いてる。 慌てなくていいぞ。 君は着替え手伝ってやれ」 と先生は言いい、 オレンジ髪の子は席を立って秀くんのところへ走った。 先生は教科書を開き授業を始める。
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