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1.音楽の日?夏にやってるアレね
喜寿を超えた頃から、俺は、年がら年中肌寒い。だから、一年を通してエアコンを23度に設定してある俺の部屋では、いつも半纏(はんてん)を羽織っている。夏でも冬でも、暑いんだか寒いんだか、よくわからない。
歳も歳なので、大した仕事はしていないが、時々、レコード会社でコンピレーション・アルバムの製作をお手伝いしたり、テレビ局に呼ばれてBSのお年寄り向け音楽番組で、50代、60代になっている昔のアイドル歌手に囲まれて歌を聞いたりする楽な仕事もある。そうそう、この間、徹子さんに呼ばれて彼女の部屋とやらで対談した。あの後、いろんな人から電話がかかって来たよ。あれには驚いた。
昨日もNテレのよく知らないディレクターから電話がかかって来て、「音楽の日で、先生作詞の歌を特集したいんですよ。」って言う。
「なんだい。あれって、秋元君がやってる女の子のグループと、ジャニーズとザイル出しときゃ数字取れるんじゃないの?」
「それだけじゃ、駄目なんですよ。今、若者はネット中心で、テレビ見てるのってお年寄りばかりだから、そっちサイドも必要で。」
「年寄りで悪かったなぁ。」
「いぇ、先生は違います。お若いです。」
「その若い感覚で年寄り向けのコーナー作れって?馬鹿にすんじゃねぇぞ。」
最近の若いテレビマンは、ここで粋な返しができず、黙りこくるのが落ちだ。なんて張り合いの無いこった。お前ら知らないだろうけど、俺たちは音楽の一時代を築いたんだぞ。それも、お前んとこの局のオーディション番組で。何が「音楽の日」だ!俺たちの頃は、毎日が音楽の日だったんだよ。ほとんど毎日歌番組やってたんだから。手書きの歌詞、万年筆で何枚書いたと思っていやがる。書いても書いても、オファーが来て、寝ないでずっと書き続けたんだぜ。
そんなことをツラツラ考えていたら、このディレクター、切り札を出しやがった。
「十時(とどき)先生とお二人で70年代へのオマージュを。」
「えっ!シュウちゃんと!」
「勿論です。お二人で、名曲の数々を。」
「なんだよ、早くそれを言えよ。ははは、いいじゃないか。」
俺の親友、十時修二。親友と言っても、十(とう)も年下だが。俺とぜんぜんタイプの違うあいつとは、逆にすごくウマがあった。西洋的な曲に、日本叙情詩的な俺の詞、このミスマッチがヒットを生み出したと言っても過言ではない。
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