5.夏が来た!「音楽の日」が始まる

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 そして、「音楽の日」当日がやって来た。季節は、紫陽花から向日葵に変わっていた。  70年代歌謡曲のコーナーで、シュウちゃんと俺はステージに引っ張り出された。「二人のヨウコ」については、洋子と曜子の売れなくなった後のストーリーが編集されたビデオで紹介された。司会のアナウンサーからコメントを求められた俺は、言った。  「70年代、私はこの局のオーディション番組をずっとやってました。様々なスターを誕生させました。そうした輝かしい世界の片隅で挫折し傷つき去っていった人も大勢いました。そして、もう一度あの興奮のステージに戻って歌いたいという人も多くいらっしゃいます。『あの人は今』という称号の人たちです。今回発表する『二人のヨウコ』は、そういう方々に光を当てたいと思って書きました。人生の応援歌だと思って聞いていただきたい。」  シュウちゃんもマイクを向けられた。  「私は、真知さんと一緒に70年代を駆け抜けました。10年間、あっという間に過ぎたって感じでした。次々明日のスターを見つけて送り出したのですが、正直、全員をフォローすることはできませんでした。あと、時代っていうのか、波って言うのか、それに乗り切れなかった人たちも大勢いました。柿沢洋子、前野曜子、二人とも才能に満ち溢れた少女でした。でも、売れなかった。僕らには理由はわかりません。それは、まるで、音楽の神様の気まぐれのようなものだと思います。残念で言葉になりません。」とそこまで話して、彼は少し涙ぐんでいた。  そして、「二人のヨウコ」のイントロが始まった。ステージの端で俺たち二人が見つめる中、曜子が階段を下りてくる。東京のライブハウスや地方のキャバレーで歌い、カラオケ教室の先生をしながら生き延びてきた彼女にとって久々の大舞台だったに違いない。でも堂々とした大人の女性の雰囲気を醸し出すあたり流石だ。それに、歌も上手い。  ステージの後ろにある大きなスクリーンには、もう一人のヨウコ、柿沢洋子の若い頃の姿とスナックでマイクを持つママの姿が映し出されているいた。  ところで、この「二人のヨウコ」の一件で、一つだけ気になったことがあった。それは、シュウちゃんが洋子さん、曜子ちゃんと呼び分けていたことだ。俺の勘だが、あいつら二人はデキてると思う。若い頃離婚して独身貴族を貫いてきたが、奴さん、そろそろ年貢の納め時か。  
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