3.街道筋のドライブインで、俺は

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 シュウちゃん。十時修二は、お父さんが外交官で、ベルギー、フランスで育った。俺が、「ピアノやヴァイオリン、あちらの一流の先生に習ったんだろ?」と問いかけると、それもそうなんだが、一流ミュージシャンの演奏や歌をコンサートホールや歌劇場で聞けたことの方が意味があったと言う。  ふうん、そういうもんかいと俺は思う。四国の農家に生まれ、蓄音機やラジオで音楽を聞いて育った俺は、ラヴェルやドビュッシーを大学生で始めて耳にして何だこれ、学校じゃ教えてくれなかったぞってぶったまげたもんだ。そういう音楽に自然に触れながら育ったシュウちゃんには、嫉妬しかない。  ところが、彼によれば、俺の詞は、土の臭いがすると言う。彼は、地面に座ったことも、小川に足を浸けたこともなくて、公園や乗馬倶楽部で人工的な土に触れただけだと言う。家も都内で、学校も高校まで目白、大学が上野で、故郷のある俺が羨ましいと抜かしやがる。そう言えば、シュウちゃんの音楽って、都会的で洗練されているものの、どこか空中に浮遊しているような、非現実的な趣がある。俺は、昔の映画で観たような欧州の街角を想像しながら彼の楽曲に詞を付けるのが好きだった。
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