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今日もいる。
高宮千隼は、バーカウンターの端に座っている男を見てそう思った。
高宮が二年ほど前から訪れている「サンガ」は、自宅の最寄り駅前にあり、バーテンダーの店主と、バイトの女性が一人いて、五席ほどのカウンターと二人席が二つ、四人席が一つあるだけの小さなバーだ。
小さな駅前にあるため、繁華街とは違い始発電車を待つ客もいないのか、営業は深夜の二時までであったが、自宅に帰る前に一杯飲むには最適な店である。
何よりも、仕事だけで一日が終わるのを避けるために通っていたが、しかし、だからと言って饒舌をふるうつもりもなく、こちらが話しかけるときだけ答えてくるバーテンダーの存在が、仕事で疲れている体にはちょうど良かった。
大体週末の二十時頃に店を訪れ、生ビールとハイボールを飲む。飲み会がある日でも、家に帰る前には必ず一杯ひっかけていくのが常であった。
薄暗い店内には、静かな音量で流れるジャズやクラッシクの音楽が流れていて心地よく、一人でぼうっとしながら酒を飲むと、ようやく一週間が終わったと思えるのだ。
そんな高宮の日常に、一人の男が静かに割り込んできたのが一カ月前のことであった。
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