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(花乃子、このビッグチャンスをものにしないでどうするの!?なにか、話を!話をしなきゃ!)
だが、相澤愁はそれ以上話す気は無いのか、そのままベンチにコロンと寝転んでしまった。
花乃子はとりあえずうるさく高鳴る心臓を懸命に落ち着かせると、深呼吸して頭を抱えた。
(どうしよう、これを逃したら一生関わる事はないかもしれない。これは神が与えたもうたありがたいフラグなのでは……。それをサッカーボールのように蹴り飛ばして良い訳がない…!だからって、何をどうすればいい!?)
混乱して意味不明な思考に陥る。
それでも花乃子は気を取り直すと、とにかく何か話しかけなくてはと己を奮い立たせた。
「あっ、あの……、この武士を!じゃなかった、このおにぎりを、あの…」
「どうですか!?」と聞こうと顔を上げた所で、花乃子はハッとして愕然とした。
いつの間にか相澤愁の周りを女子の団体が取り囲んでいたのだ。
キャーキャーと騒ぐ女子に群がられ、相澤愁の姿が女子の壁の向こうに消えた。
花乃子は暫くその様子を呆然と眺めた後、食べかけのおにぎりを片してベンチからよろよろと立ち上がった。
(ふふ、何を期待したんだろう。こんな自分が相澤愁君にお近付きになれる訳ないのに。この身の程知らずめ…)
とぼとぼと歩きながらギュッと手を握りしめる。
こちらをクスクスと笑いながら見ていた相澤愁の顔を思い出して、胸がぎゅうっと苦しくなった。
ふと、左手をかざして眺めてみる。
小指には何も無かった。そのことが、追い打ちをかけるように花乃子をガッカリさせた。
(あのチャンスをものにしてたら、繋がれたのかな…)
そんな事をボーッと考えていると、後ろから誰かの叫び声が聞こえた。
それは低い男子のもので、まさか自分に向けられているとは思わずに「?」と振り返った。
その瞬間、ドンッと顔面に丸くて固いものがぶち当たる。
その衝撃に、体が後ろへ傾き、平衡感覚がわからなくなった。
襲ってきた顔面の痛みに悶絶しながらよろよろ後ずさっていると、不意にガクッとどこかに足を踏み外した。
すぐ側に池があったことを思い出したが、そんなものは後の祭りだった。
傾いた体はゆっくりと倒れて行き、そのままドボンと水しぶきを上げて池に落ちてしまったのだった。
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