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(青春の1ページって、こんな感じなのかな。……これが相澤君だったら、どんなに胸がときめいてドキドキするんだろう)
想像すると、ちょっとだけドキドキとした。
ふと、自転車を軽快に漕いでいた彼が話しかけてきた。
「道案内、よろしく」
「あ、は、はい。えっと、この大通りをずっと真っ直ぐ行ってくれたら…」
「了解」
それ以上話す気はないのか、彼は黙った。
その後は、花乃子がポツポツと道案内で話す程度だった。
「あ、ここのコンビニまででいいです。すぐそこなので」
家の近くのコンビニで自転車を止めてもらうと、花乃子は急いで自転車を降りた。
「あの、ありがとうございました」
「いいよ、怪我させたの俺だし」
「怪我?」と首を傾げると、彼は自分の鼻をちょんちょんとつついてみせた。
それを見てハッとする。鼻に綿を詰めていたのをすっかり忘れていたのだ。
己の間抜けさに赤面してしまう。
「あ、あははははは」
そして不運とは続くもので、恥ずかしくて死にそうなのに、お腹からギュルルルルと盛大な空腹音が鳴った。
そう言えば、昼のおにぎりを食べ損ねていた。
「あ、あはは…」
赤面を通り越し、真っ青になる。
花乃子は急いで「では」と頭を下げると、勢い良く回れ右して歩き出した。
(私の人生において、この出来事は完璧な黒歴史になった……)
呆然としながらトボトボと歩いていると、 不意に「待って」と呼び止められた。
振り返った瞬間、彼からポンッと何かを投げ渡される。
花乃子は慌ててそれを受け取ると、両手でキャッチした物をゆっくりと開いて見た。
「あ………」
それは、ミルクキャラメルの箱だった。
驚きながら彼を見ると、ニッと屈託のない笑顔を向けられた。
「それあげる」
「あ、え、あり…」
「あんな大きいおにぎり食べてるくらいだからさ、そんなの腹の足しにもなんないだろうけど」
花乃子はギョッとする。
だが、こちらの反応に気付いていないのか、彼は楽しそうに言った。
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