第1話 小指の糸

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(青春の1ページって、こんな感じなのかな。……これが相澤君だったら、どんなに胸がときめいてドキドキするんだろう) 想像すると、ちょっとだけドキドキとした。 ふと、自転車を軽快に漕いでいた彼が話しかけてきた。 「道案内、よろしく」 「あ、は、はい。えっと、この大通りをずっと真っ直ぐ行ってくれたら…」 「了解」 それ以上話す気はないのか、彼は黙った。 その後は、花乃子がポツポツと道案内で話す程度だった。 「あ、ここのコンビニまででいいです。すぐそこなので」 家の近くのコンビニで自転車を止めてもらうと、花乃子は急いで自転車を降りた。 「あの、ありがとうございました」 「いいよ、怪我させたの俺だし」 「怪我?」と首を傾げると、彼は自分の鼻をちょんちょんとつついてみせた。 それを見てハッとする。鼻に綿を詰めていたのをすっかり忘れていたのだ。 己の間抜けさに赤面してしまう。 「あ、あははははは」 そして不運とは続くもので、恥ずかしくて死にそうなのに、お腹からギュルルルルと盛大な空腹音が鳴った。 そう言えば、昼のおにぎりを食べ損ねていた。 「あ、あはは…」 赤面を通り越し、真っ青になる。 花乃子は急いで「では」と頭を下げると、勢い良く回れ右して歩き出した。 (私の人生において、この出来事は完璧な黒歴史になった……) 呆然としながらトボトボと歩いていると、 不意に「待って」と呼び止められた。 振り返った瞬間、彼からポンッと何かを投げ渡される。 花乃子は慌ててそれを受け取ると、両手でキャッチした物をゆっくりと開いて見た。 「あ………」 それは、ミルクキャラメルの箱だった。 驚きながら彼を見ると、ニッと屈託のない笑顔を向けられた。 「それあげる」 「あ、え、あり…」 「あんな大きいおにぎり食べてるくらいだからさ、そんなの腹の足しにもなんないだろうけど」 花乃子はギョッとする。 だが、こちらの反応に気付いていないのか、彼は楽しそうに言った。
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