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糸の先はどこに繋がっているのか確認しようと振り返ったが、糸がずっと遠くまで続いているのを見て諦めた。
「どうしよう……運命の人と、結ばれようとしてるってこと……?」
漂う糸を遠くに見ながら、花乃子は途方に暮れた。
次の日、郁美に一連の出来事を話すと、いつも冷静な彼女が珍しく慌てた。
「で、その後確認しなかったの!?」
机を乗り上げる勢いで迫ってきた郁美に、花乃子は教科書を盾にして縮こまった。
「だって、怖くて…。確認して、相手が相澤くんじゃなかったらきっと落ち込んで泣くよ。もしくは知らないおじさんとかだったら……立ち直れない…」
郁美は両腕を組んで「うーん」と考え込む。
「相澤はともかく、おじさんの確率はないでしょ。それより、そのサッカーボール男子が気になるよね。そいつに関わった後でしょ?」
花乃子はガックリと項垂れる。
よく考えなくても、確率的に彼が相手である可能性が一際高いのはわかっている。
だが、考えたくなかったので、蓋をして見ないようにしたかった。
誤魔化すように「うーん」と唸る花乃子に、郁美が容赦なく言った。
「その男子の名前は?何年何組?」
花乃子はうっ、と後ずさる。
「そ、それが……名前も、何年生かもわからなくて…」
「え?聞かなかったの?二人乗りまでしたのに??」
「た、確かジャージの名前には花……なんとかって書いてあったような、甘そうな名前だったような…。とにかく、やんちゃな感じの、元気な人で、女の子のタイプは平気でおっぱい大きい人とか言いそうなデリカシーのないタイプで…」
「なんじゃそりゃ。つーか、花で、甘そうな名前……?」
郁美は暫くムムッと考えを巡らすと、ハッと顔を上げた。
「それってさ、花に、蜜って書いてなかった?」
「あ、そうそう、確かそうだった…」
「それ、はなみつだよ。花蜜燐太郎」
「花蜜、燐太郎…」
名前を口に出すと、いよいよ現実味が帯びてきて、花乃子はたじろいだ。
そんな花乃子に構うことなく、郁美が続けた。
「一年一組、花蜜燐太郎。サッカー部に所属、アホで元気でクラスのムードメーカー。花乃子の言う通り好きな異性のタイプはおっぱいが大きくて年上のエロいお姉さん。ややデリカシーに欠けるけど、爽やかで可愛い容姿も手伝って、女子には結構モテてる」
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