279人が本棚に入れています
本棚に追加
つらつらと喋る郁美を、花乃子は口をあんぐりと開けて聞いていた。
「い、郁?なんでそんなに知って……?」
郁美は肩で息をつくと、苦い顔をして言った。
「それ、あたしの幼馴染……」
「……へ?」
郁美は頭痛がしたように頭を押さえる。
「家も近所で、幼稚園の時からの腐れ縁でさ。うるさいしサッカーバカだし、ほんっと仕様のない奴なんだよね。まさか、花乃子と縁が繋がるとは…」
そう言いつつ、郁美は苦笑する。
だが、その表情がどこか寂しそうに見えて、花乃子は微かな違和感を覚えた。
なにか特別な雰囲気を感じて、花乃子は慌てて言っていた。
「ま、まだわからないじゃない!それに、もしそうだとしても、だ、大丈夫だって!言ったでしょ、糸は切れるものだって。うちの両親だってさ、ぷっつり切れたと思ったら離婚だったよ!だからさ、どうにかすれば縁は切れるんだよ」
「どうにかって?」
「だから、たぶん、運が引っつけようとするなら、とことんそれに抗えばいいんじゃないかな?だって、私が好きなのは相澤くんでしょ?もし相手が花蜜くんなら、関わらないようにすればいいんだよ!」
郁美は解せない顔をする。
「花乃子が一方的に避けてもさ、あいつが知らず知らず花乃子に近付くかもしれないじゃない。糸の力って凄いんでしょ?うちのクラスで嫌いあってた佐藤と西崎さんも、糸が繋がったらあっさり付き合ったし。だから、花乃子が避けても簡単に縁が切れるとは思わないけど?」
花乃子は「うぅ~」と唇を引き結んだ後、ダンッと勢い良く机の上を叩いた。
「郁!花蜜君を昼休みに体育館裏に呼び出して!」
「体育館裏?」
「そう!私には考えがある!とにかく、糸の先が彼なのか確認して、それでもしそうなら、何としてでも花蜜くんとの縁を切る!だって、私は相澤君が好きなんだもん、あんなデリカシーのないヘラヘラした人なんてごめんだから!それに、運命に相手を決められてたまるもんですか!」
花乃子は息荒く捲し立てると、目を丸くしている郁美に「ね!」と詰め寄った。
そして時は、あのバカげた提案をふっかける場面に戻るのだった。
◇ ◇ ◇
最初のコメントを投稿しよう!