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「渡瀬さんみたいに可愛い子に、運命の相手ですって言われて簡単に手放すようなバカな男いないよ」
またも、ドキッとさせられる。
「な、なななななななな!」
「ま、昼飯のおにぎり、くっそデカいけど」
「………………」
「じゃあ、俺もう行くね」
「ばいばーい」と手を振ると、花蜜は軽快に走り去って行った。
(やっぱりデリカシーがない…。絶対に糸を切ろう……)
花乃子は心の中で強く決意しながらも、ふと思った。
(花蜜くんの好きな人って誰だろう…)
何となく、頭に郁美の顔が浮かんだ。
(あの時の郁、なんか様子が変だったんだよな…。だから私、早く花蜜くんとケリをつけないとって思ったんだよなぁ。……なんとなく)
そのなんとなく、がハッキリしなかった。
花乃子は「まぁいっか」と立ち上がると、郁美への報告を急いだ。
◇ ◇ ◇
郁美に全てを話すと、彼女はホッとしたように笑った。
「やっぱり繋がってたんだ。でも良かったじゃん、信じてくれて、協力もしてくれるみたいで」
花乃子は脱力しながら机の上に突っ伏す。
「ほんと、良かったよ。女の子はみんな信じてくれてるけど、男子ってそう言うの信じないから。それに、関わらないって約束出来たし、このまま何事もなく過ぎ去ってくれたら安心だよ」
郁美はふふっと可笑しそうに笑った。
「あいつと会って、何とも思わなかったの?糸が繋がってるんだから、ちょっとはいいなって思わなかったの?」
「ないない。それに、お互い好きな人がいるから、何とも思わないよ」
「好きな人?」
花乃子はしまった、と思った。
「えーっと…」
あわあわと慌てる花乃子に、郁美は暫く浮かない顔をした後、困ったように笑った。
「燐太郎、好きな人いるって言ったんだ」
「あ、う、うん……」
「そっか……」
どこか気落ちしてしまった郁美に、花乃子はこの違和感の正体を突き止めようと口を開いた。
「あ、あのさ、郁、もしかして、郁は花蜜くんのこと……」
好きなの?と言いかけた時、意外な邪魔が入った。
廊下の外から、担任が「おーい」と誰かを呼んだ。
「渡瀬ー!お前オリエンテーションのクラス代表じゃなかったか?」
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