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(うわぁ……これ、なんのフラグなんだろう……)
遠のく意識の中、誰かの叫び声を聞きながら、花乃子は冷たい水の中で意識を手放したのだった。
目を覚ますと、保健室のベッドの中だった。
いつの間にか体操服に着替えていて、自分が池に落ちたことを直ぐに思い出す。
鼻の穴に違和感を感じて、そっと指で触れてみると、綿が詰められていた。
そこでまた、自分が顔面にボールを受けたことを思い出した。
(最悪だ…………)
愕然としながらも、ベッドから立ち上がってカーテンに手をかける。
すると、聞き慣れない男子の声がカーテンの向こうから聞こえてきた。
「せんせーい、具合どうっすか?」
真面目さの欠けらも無い、飄々とした声だった。
保健師が言った。
「うん、顔色も悪くないし、寝てるだけだから大丈夫だと思うんだけど。まぁ、親御さんに連絡つけて、念の為病院に行って欲しいんだけどね」
「連絡つきました?」
「それがつかないのよ。とりあえず君、帰るの待って貰っていい?」
「うーっす」
彼の返事と共に、シャアッとカーテンが開けられる。
目の前に、人懐っこそうな目をした少年があらわれた。見るからに明るく健康的で、爽やかな容姿が印象的な男子だった。
彼は突然あらわれた花乃子に「うおっ」と驚いた様子だったが、直ぐにホッとしたように笑うと、その人懐っこい目を丸くしてあっけらかんと言った。
「あ、良かった良かった、起きたんだな」
困惑しているこちらに構うことなく、彼が後ろの保健師へ振り返る。
「せんせーい、この子、目ぇ覚めてた」
保健師が「良かったー」とこちらにパタパタと駆けてくる。
その間、花乃子は悟られないように彼を盗み見た。
彼も同じように制服ではなくジャージを着ていて、胸元には「花蜜」と学校指定である氏名の刺繍が施されてあった。
何と読むんだろう、とぼんやり思っていると、保健師が慌てた様子で言った。
「よかった、渡瀬さん。具合はどう?」
「はい、あ……全然大丈夫です」
「良かったわ。それで、さっきから親御さんに連絡がつかないんだけれど、渡瀬さんから迎えに来るように連絡してもらっていいかしら」
花乃子は気まずい思いで「それが…」と口をもごもごさせる。
隣にいた花蜜という男子は、目をキョトンとさせてこちらを見下ろしていた。
「それが、あの、今父親がぎっくり腰でして…。迎えは無理だと思います」
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