第1話 小指の糸

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(うわぁ……これ、なんのフラグなんだろう……) 遠のく意識の中、誰かの叫び声を聞きながら、花乃子は冷たい水の中で意識を手放したのだった。 目を覚ますと、保健室のベッドの中だった。 いつの間にか体操服に着替えていて、自分が池に落ちたことを直ぐに思い出す。 鼻の穴に違和感を感じて、そっと指で触れてみると、綿が詰められていた。 そこでまた、自分が顔面にボールを受けたことを思い出した。 (最悪だ…………) 愕然としながらも、ベッドから立ち上がってカーテンに手をかける。 すると、聞き慣れない男子の声がカーテンの向こうから聞こえてきた。 「せんせーい、具合どうっすか?」 真面目さの欠けらも無い、飄々とした声だった。 保健師が言った。 「うん、顔色も悪くないし、寝てるだけだから大丈夫だと思うんだけど。まぁ、親御さんに連絡つけて、念の為病院に行って欲しいんだけどね」 「連絡つきました?」 「それがつかないのよ。とりあえず君、帰るの待って貰っていい?」 「うーっす」 彼の返事と共に、シャアッとカーテンが開けられる。 目の前に、人懐っこそうな目をした少年があらわれた。見るからに明るく健康的で、爽やかな容姿が印象的な男子だった。 彼は突然あらわれた花乃子に「うおっ」と驚いた様子だったが、直ぐにホッとしたように笑うと、その人懐っこい目を丸くしてあっけらかんと言った。 「あ、良かった良かった、起きたんだな」 困惑しているこちらに構うことなく、彼が後ろの保健師へ振り返る。 「せんせーい、この子、目ぇ覚めてた」 保健師が「良かったー」とこちらにパタパタと駆けてくる。 その間、花乃子は悟られないように彼を盗み見た。 彼も同じように制服ではなくジャージを着ていて、胸元には「花蜜」と学校指定である氏名の刺繍が施されてあった。 何と読むんだろう、とぼんやり思っていると、保健師が慌てた様子で言った。 「よかった、渡瀬さん。具合はどう?」 「はい、あ……全然大丈夫です」 「良かったわ。それで、さっきから親御さんに連絡がつかないんだけれど、渡瀬さんから迎えに来るように連絡してもらっていいかしら」 花乃子は気まずい思いで「それが…」と口をもごもごさせる。 隣にいた花蜜という男子は、目をキョトンとさせてこちらを見下ろしていた。 「それが、あの、今父親がぎっくり腰でして…。迎えは無理だと思います」
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