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「レベルアップ、おめでとう」
ダンジョンに駆け込んだ時点で、用意していた言葉はすっかり忘却の彼方へ消えていた。結局、言葉にならない感情を持て余し、思わず言った言葉がこれである。
僕の言葉に、勇者はきょとんとした表情のあとで、不意にポロポロと大粒の涙を流しはじめる。安静が第一と言われている勇者を泣かせるつもりなんてなかった僕は、あわててなだめる。
「ご、ごめん なんか変なこと言っちゃって……」
「そうよね。そのとおりだわ」
あわてる僕に、しかし勇者は泣き笑いの表情でそう言った。
「お誕生日おめでとう」
勇者が、愛おしい表情でそう語りかける。
誕生日。
みんなが自分を祝ってくれる特別な日。
だけど、みんなはいったい何を祝ってくれていたのだろう。
ふと、理解がきた。
こうして誕生日を迎えられたこと。
つまり今、僕がここにいること。
それを祝ってくれていたのだ。
勇者の胸元で、人生最初の誕生日を迎えたわが子が泣きはじめた。
僕はここにいるぞ、と。
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