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「…なんて、人間が居なくなった今に考える事も無いか」
小高く競り立った丘の上に立つ細身のアンドロイドは、自身の首の後ろに取り付けられた空気排出口からフシュと熱を帯びた空気を吐き出すと、地面に敷かれている分厚い雪の層を足跡を残す様に深く踏み締めた。
ここ暫くの豪雪に因って積もり積もった柔らかな雪が彼の足元でギシリと鈍く軋む様な音を立てたかと思えば、彼が脚を地から離したその瞬間には、既にそれ等は彼の足裏の形と同一な形として成り立ってその場に鎮座していた。
だが、その足跡が形を残した所でアンドロイドである彼には、それが何故発生した物なのかや何の影響を受けたのか、それ処かそれが意図的に産まれたのか偶発的に産まれたのかすらも分からないのである。
それは彼を創造した彼の産みの親、人間の言葉で言う所の科学者達が彼のコンピュータプログラムに『足跡』に関するデータを打ち込まなかったのが主要因であろう。
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