居るとは思わなかった。

【プロローグ】

幾らアンドロイドが記憶容量の高さを誇るコンピュータを内蔵していると言えども記憶量は無限では無い。科学者達もそれを充分に理解した上で、世の中にあった膨大な情報を何度も淘汰して行って残ったほんの一握りの情報をデータとしてコンピュータに打ち込んでいるのだ。

彼のコンピュータプログラムには主に人間との対話の仕方や対話パターンの形式化、礼儀やマナーの基本等の『コミュニュケーション能力』を基礎としたデータのみしか組まれておらず、その為に彼は産まれながらにして『人間と話す事』しか仕事が与えられていなかったのである。

しかも人類が滅亡してアンドロイドしか知能を持った生命体がいない今の地球に置いて、人間と対話するという仕事しか持たないアンドロイドは何の特技をも持たない平凡なアンドロイドと同様。世界に多く量産されている様な稼働するだけのアンドロイドに過ぎないのであった。

｢…出来損ない｣

不出来や不完全という意味合いで相手を罵ったりする時に使われる、俗に言う所の悪口と呼ばれる言葉だと脳内のコンピュータが伝える。