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帰ろうとしたら、酷い夕立に襲われた。自転車置き場まで来たはいいが、端に寄ろうものなら無慈悲な跳ね返りが制服から出た脚を濡らす。
びしゃびしゃ。ばちゃばちゃ。そんなかわいい音ではなく、50メートルプール程のバケツを常時ひっくり返し続けるような──他の音がまったく聞こえなくなるような音。
「──ぃ……」
「なぁに?」
何か、隣にいた彼女が言葉を発した気がした。それは僕の耳には届かず、雨音に吸い込まれてしまったが。
「……なんでも、ない」
僕の耳元に寄せられた君の唇がそう振動した。
僕の耳は人より格段に悪い。聴覚に問題があるというよりは伝達に少し時間がかかるような、そんな感じ。だから、嘘だというのは、わかっていた。あとあと、聞こえてきていたから。
「そう。……雨、上がらないね」
だって、夏、だもんね。
君がいなくなった、夏、だもん。
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