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キッチンを片付けていると、寝室のドアが開く音がして、カズキは顔を上げた。
ほとんど足音も立てず、上背のある男性が現れた。
百八十一センチで高身長と言われるカズキよりも、まだ背が高い。
彼は、カズキの姿を確認すると、
「来てたのか。気づかなかった」
と、静かな低い声で言った。
「気付かれないように入ったんで」
カズキは冗談めかした口調で答えた。
「塚原さん、飯ちゃんと食ってます?」
「ああ、おれは平気、」
「平気、じゃないですよ。レイに引っ張られて一緒にだめになったら元も子もないんですからね」
カズキにもっともなことを言われた真澄は、参ったなという感じで苦笑した。
「弁当も買ってきてありますよ」
カズキはコンビニのプラスチックバッグから弁当を出して、真澄に差し出した。
「ありがと、」
真澄は素直に弁当を受け取る。
レイと真澄が二人で暮らしているその部屋は、2LDKに対面キッチンの間取りだ。
ダイニングスペースには二人がけのダイニングセットがあり、真澄はそのイスに腰を下ろした。
しかし弁当を開けようとしたとき、寝室から物音が聞こえてまたすぐに立ち上がった。
けっきょく何も食べないまま、寝室に姿を消してしまう。
カズキは真澄の後ろ姿を見ながら肩をすくめた。
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