1.胡蝶蘭

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 レイが危ういのは周知のことで、モトイはマネージャーとして雇われたときに、レイの管理をすることも業務のひとつとして指示されている。  当然、今回のことについて、どうしてこうなったのかと問い詰められることを、モトイは覚悟はしていた。 「あんた、レイのこと殺すつもり?」  人殺し未遂の疑いまでかけられるとは正直思っていなかったが。  声を荒げるわけではなく、淡々とそう言ったのは、胡蝶蘭のホストのひとりであるカズキという男だった。  百八十を超える長身に、均整の取れたモデルのような体躯が目を引く。 端正な面立ちに、くっきりとした二重の深い黒の瞳で相手を真っ直ぐに見る癖があった。 それが甘えたがりの大型犬を連想させて母性本能をくすぐられると、もっぱら客の受けが良い。  人当たりもよく、会話が苦手な相手とでもすぐに馴染んでしまうので、性欲発散の目的でホストを買う客が圧倒的に多い中、カズキには性交渉なしのコースの予約もよく入った。  口調は淡々としていても、カズキのモトイをにらむ視線には怒気が含まれていることがわかった。 普段の穏やかな雰囲気は、今は皆無で、彼の表情は軽蔑とか幻滅とか不信といった、ネガティブな感情をあからさまにしている。
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