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秋留もそんな一人だった。秋留と私は同じクラスで、秋留は音楽科がある高校を受けさせてもらえなかった。秋留はピアノをずっと習ってきたけど、バイエルを終わったのは小学校卒業ギリギリ。学校のピアノ伴奏はいつも他の子が選ばれて悔しい思いばかりしてきたって言ってた。
私と秋留は似た者同士。苗字も皆川秋留と三山幸花、出席番号がひとつ違い。成績も下の方の三分の一で低空飛行。パッとしない青春を持て余してる。私たち二人は今日も冴えないままくだらないおしゃべりをしてた。
「乖離っていうのかな。できることとやりたいことってイコールじゃないよね」
秋留は寝癖がついたままのベリーショートの髪をいじりながら振り返って、私の机に野球のスライディングのように突っ伏して話しかけてきた。私は腕組みをしたまま小さなため息をついて、
「うん。なんかさ、好きなことを仕事にしたいと思っても上には上がいるからムリだよね」
秋留が突然ガバッと状態を起こした。
「待って、付加価値をつければいけるかも。何か特別な…」
何か特別な付加価値…。私は昔愛読している漫画雑誌についていた、おまじないシールを思い出した。好きな人の名前を書いて、上から漫画のキャラクターの絵が描いてあるシールを、名前を隠すように貼る雑誌の付録。私は思いつきを秋留に話してみた。
「恋が叶うおまじないとか?秋留が作ったオリジナル曲をCDにして私が描いた絵をラベルシールで貼ってさ。聴くと恋が叶う曲っていうのはどう?」
「それいいね!恋が叶うCD、需要あるよ。でもさ、ぶっちゃけウチらは占いもおまじないも素人じゃん?どうする?」
秋留が身を乗り出して聞いてくる。私はこめかみに手を当てて考えた。サイドを編み込みにして後ろでハーフアップにした背中まである長い髪が、教室の窓から吹き込む風に揺れる。私はあることを思いついたから秋留に耳打ちする。
「んー。それが問題だよね。最初はさぁ、恋愛が上手くいきそうな子にこれ恋が叶うCDってウワサだからあげるよってプレゼントして、その子の恋が叶ったら実はウチらが作ったってネタばらしするのはどう?」
「それいいね。ウチらって、人間観察得意だから恋愛上手くいきそうな子にプレゼントしてその子からの口コミでドカっと人気出るかも」
「最早おまじないじゃなくて、サクラの仕込みだね」
「まあ、おまじないと占いはそんな験担ぎみたいものだよ」
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