叶わない夢

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私たちが通う宇野原女子高の、同学年の1年で一際目立つ有名人、天野三咲。入学式に他校の制服をリメイクした格好で現れた。足元はルーズソックスに踵を潰したローファー。髪はライトブラウンに白いメッシュが入っていて、シャギーが入った毛先を遊ばせている。肩まであるセミロング。メイクもバッチリ。どこからどう見ても立派なコギャルだった。ものすごく場違いな人が入学してきた。体育館はざわざわとしていた。そのざわめきがピークに達したのは、新入生代表の挨拶だった。 毎年入試トップの成績を取った者が新入生代表の挨拶をする、それは新入生でも知っているウワサで歴代の新入生代表もぶっちぎりの成績で頭の良い人だったらしい。新入生代表の挨拶をした人はT大や医大の受験を現役で通過する逸材として一目置かれる存在になる。 壇上に上がったのは悪目立ちしていたあのコギャル。ざわめきは感嘆のため息に変わった。宇野原女子高では勉強は出来て当たり前、勉強以外のプラスアルファでヒエラルキーが決まる。 コギャルの彼女は頭が良いだけではなく、今しか出来ない自由なおしゃれを目一杯楽しんでいた。基本的にガリ勉の優等生が多い宇野原女子で、尖っている彼女は先輩達からも憧れの眼差しで見つめられていた。宇野原では間違っても 「1年のくせに調子に乗ってんじゃねーよ」 なんて、チーマーかヤンキー気取りで絡んでくるアホな先輩はいない。彼女はもしかしたらおしゃれを目一杯楽しむために宇野原を受験したのかもしれない。 壇上のマイクの前で彼女が照れくさそうに微笑む。 次の瞬間、彼女は両手に持っていた挨拶の原稿を破り捨てた。体育館のあちこちから小さな悲鳴が上がる。優等生でずっとやってきた宇野原の生徒はみんな彼女の暴挙に怯えていた。すると彼女がマイクスタンドからマイクを取り外してマイクに向かって呟いた。 「宇野原女子で自由を満喫します。女子高生という貴重な時間を無駄にしたくないからありきたりな挨拶はしません。新入生代表、天野三咲。以上」 意外と礼儀正しく一礼をして壇上から立ち去る彼女に贈られたのは賞賛の拍手と、一部のノリのいい上級生の掛け声だった。 「いいぞ、今年の1年面白い」 「宇野女(うのじょ)らしくて最高!」 天野三咲は入学式のこの一件であっという間に宇野原女子一番の有名人になった。
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