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葉室さんは静かに語った後、私たちに軽く会釈をして高そうな腕時計を見て言った。
「もう時間か。ごめんね、そろそろ行かないと。またここから一年間芸能界の激しい椅子取りゲームだ。来年生き残ってるかどうか保証はないから。でも、三咲ちゃんに良い報告が出来るように頑張るよ。三咲ちゃんの大切な親友に会えて良かったよ、それじゃあ」
私たちは葉室さんに一礼して見送った。小走りで手桶を片付けに走る葉室さんの後ろ姿を見ながら私は秋留に話しかけた。
「オー・ヘンリーの最後の一葉とは逆パターンだね。葉が落ちることでメッセージが伝わる」
「うん、最後の一葉は葉が残ってるように絵を描くんだよね。三咲ちゃんが葉室さんに会えて嬉しくてこぼした涙の粒みたいだった、あの落ちてきた葉っぱが」
私たちも帰り支度をして墓地を後にした。因幡山公園の墓地の入り口にある階段を降りていくと、今年初めての雪が降り始めた。杉の木の間から落ちてきた雪は人肌ほどの熱をおびていた。秋留が言った。
「暖かいね、この雪」
私は手の平の雪を握りしめて秋留の方を向いて言った。
「三咲ちゃんだよね、この雪は。春の雪みたい。」
秋留はうなずいてくれた。
「泣いてるんだよ、葉室さんに一年ぶりに会えたから。ほらほんの少し桜色してるよ、この雪。三咲ちゃん、照れてるのかな?」
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