七月の雲の向こうに

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 みんなは勝手だ。 「でもそれはアメアメが負けるのがいけないんだよ?」 「だがもう十日も降り続けている。あいつもそろそろ限界だ。何より下界のバランスが崩れるだろう」 「だからって僕の楽しい一日をつぶせって?」 「キサマが今日一日でも受ければ万事解決する」  十日間負け続けたアメアメは疲労で今日寝込んでしまって、今日の当番を冷静なライライがハレハレに頼みに来ている。 「やだ」 「何だと!」  ぼくの髪も逆立つほど一気にライライのエネルギーがふくれあがった。ハレハレの熱放射とライライのバチバチにやられないように少しはなれる。 「くしゅん」  鼻がたれる。アメアメが倒れたって言うから心配してきたのに。 「じゃあもうクモクモでいいじゃん」 「え」  ハレハレがぼくの背中にまわって、まだバチバチしてるライライのほうに押し出す。 「ぼくまだ本調子じゃないよ」 「今日一日だけだって」 「キサマそのせりふ何度使った?」 「んじゃ、お願いねー」  そのまま走り去ってしまう。ライライと一緒に見送ったあと、ライライは鬼神並みにきつい眼でぼくを見下ろす。 「頼めるか?」 「ハレハレなしだよ?」 「決定だ」  ライライに逆らえるほどぼくは強くない。「はい」と小さく返事をした。ぼくたちの主要メンバーはぼくとアメアメとハレハレだからわかってたけど、病み上がりに仕事……。  ため息をついて雲を広げられる位置まで移動する。  下界はやっぱりひどいことになっていた。ほとんどが浸水しているし、ダムも一部決壊してる。  雲を広げ始める。アメアメがいないから雨雲はバツ。ハレハレがいないから雲つきの晴れは無理。ライライがいないから雷雲はなし。フウフウがサボってるから無風の下界。  みんなは勝手だ。  薄くて簡単に太陽の光を通してしまっているけど、何とか空を覆うだけの雲を広げられた。雨雲でも雷雲でもないから、ものすごく白い。  知らず知らず猫背になっていたみたいでこった肩をほぐす。上を振り返ってみるけど、当然のように誰もいない。ううん、いるけど、新人のニジニジちゃんが爆睡してるだけ。あの子もまだ仕事してないんだよなあ。 「……降りよう」  行き先はお気に入りの公園。豪雨でめちゃくちゃになってないといいけど。  下界と上をさえぎる雲を抜けたとき、公園が見えた。……なってる。
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