七月の雲の向こうに

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 よそ見していたら足元がおろそかになった。うまく着地できなくて、しかも瓦屋根をゴロンゴロン転がっていく。そのまま投げ出されたときに植わっていた木に激突して腰くらいの深さに背中から飛び込む。がぼがぼ泥水を飲み込みながら立ちあがると、上からふさふさした何かが降ってきた。 「な、なに?」  そのなにかはにゃあと鳴くと水に落ちないようにぼくの頭にしがみついた。  たぶん三毛猫。頭の後ろに目がついていればちゃんとわかるんだろうけど。 「下りて」  頭の後ろに手を回してがしっとつかんで引っ張る。猫もぼくの耳をつかんで踏ん張る。 「ちょ、いった、いっったい」  すぐにあきらめたぼくに猫は満足そうにしがみつく。と思ったら、猫パンチを食らわせながら落ちてきた木を示す。そこには枝の上で縮こまった白猫が一匹、ぼくらを見下ろしていた。  白猫はつぶらな瞳で、三毛猫は鬼気迫る形相でぼくを見つめてくる。視線をそらしたら三毛猫にぶっ叩かれた。  下界では猫まで勝手なのか。  辺りを見回して周りに誰もいないことをしっかり確認してから、手元でクッションくらいの大きさの雲のかたまりを作る。それをふわふわさせて白猫のすぐ下にただよわせる。 「下りてきて」  白猫は完全に腰が引けていた。こわごわ下をのぞきこむけれど、すぐに元に戻ってしまう。三毛猫が手を合わせて気を引く。それが逆効果だった。もう一歩前に出た白猫が足をすべらせて枝から落ちた。  ぼくは頭に三毛猫を乗せていることを忘れて白猫を助けるために飛び込んでそのままダイブした。泥水の中に三毛の尻尾と白の尻尾を見つけて、それをつかんで起き上がった。起き上がってすぐに二匹の猫はぼくの肩によじ登って、それぞれ猫パンチと猫キックをかました。  助けたのぼくなんだけど。 「悪かったね、ご主人様じゃなくて」  攻撃をやめない二匹はほうっておいて、周辺の人間の気配を探す。たくさんの人間が集まっているほうにざぶざぶと水をかき分けながら進む。  するとなにやら騒ぎが見えてきた。たぶん避難場所であろう学校の体育館の入り口から女の子の金切り声が響いてくる。 「探しにいかなきゃ! みーちゃんとしーちゃんを置いてきちゃったの!」  小学生くらいの女の子がお母さんに必死に訴えているのを、お母さんと消防隊員の人がなだめている。
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