出来心の召喚

8/23
前へ
/192ページ
次へ
アフタヌーンティーに出されたサンドイッチに手を伸ばす。 甘い匂いが溢れてるティーサロンにて俺はのんびりとお茶を飲んでいた。 出てくる菓子は死ぬほど甘たるいので絶対に食べない。特に皿に並んでいるハルヴァと呼ばれる母上の故郷の味という菓子は最上級に甘かった。 「やあ、これはこれはジェド王子。この様な場所にお一人でお越しとは珍しいんじゃないですか?」 当たり前のように向かいの席に着くと、ウインクを飛ばしてくる。 「…ベニート」 ベニートは長い指でハルヴァを摘むと口に放り込んだ。途端に眉をひそめると、すぐ俺のティーカップを奪って口をつける。俺は黙って手を挙げるとすぐに控えていた給仕係が新しく淹れ直したお茶を二つ持ってくる。 ベニートは「ありがとうね」と給仕係に無駄に愛想を振りまく。見惚れたように顔を赤くした女はすぐに一礼して立ち去った。自分は女性を見たら声を掛けずにはいられない性分を母方の血筋より受け継いでいるのだ!…だそうだ。ベニートの母親のマリーア様も異世界からの召喚組で出身はイタリア?とか言ってたような。「情熱とアモーレの国なのよ!」と故郷の自慢をされておられたのを思い出した。ちなみにベニートは俺の従兄弟にあたる。 王弟の子息で16歳と歳も近い為、公式の行事など顔を合わせる機会も多かった。そして気安く俺の菓子を摘む程度には仲が良い。 「聞いたよ?お前が王太子殿下の事をそんなにも大事に思ってたなんてこれっぽっちも知らなかった」 「何の話?」 「またまた~!惚けちゃって。可愛い可愛い末弟君が大好きなお兄様の7年越しに叶う花嫁の降臨の言祝ぎをいの一番に言いたいってゴネた話は美しい兄弟愛の美談として語り継がれてるぜ?」 「じゃあ、くそ女が降ってこい!って呪詛かけたって話は広まらなかったのか。へぇ。案外アイツらでも忠義立てするんだな」 「綺麗な顔して本当、口から出る言葉が汚い!そのうち性格が顔に滲み出ちゃうよ。やめなさいよ、本当!」
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

266人が本棚に入れています
本棚に追加