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「早く見つけてあげる事が出来たら良かったのに…」
入り口が開くと一行が現れた。母上は父上の腕に縋り、寄り添いながら歩いておられる。いつも凛として、お強い母上から一変したお姿だった。
「可哀想に…あの娘、恋人がいたのね…サエコを失ってしまった恋人にはとても辛い思いをさせてしまうわ」
召喚された花嫁とその恋人を憂慮されておられる。父上はそっと伸ばした手を労わるように母上の手に添えて、ゆっくりと母上のこめかみと頭に口付ける。
「二人の二十日篭りが無事に終え、婚約が成立すれば授ける姿見の力によって全てが上手くいくさ。君の家族もそうであった様に」
「陛下…」
父上は頷く母上を慈しむように見つめると母上の腰に手を回し整列している白ずくめの集団の横を通り過ぎた。その後ろを第二、第三王子達もついて歩く。勿論、俺達の事は気付かれてはいない。
宰相と司祭は侍従長や衛生管理者に話をして指示を下していた。
レイオンが言っていた通り、王太子と花嫁は出て来ることもなく、まだ授かる場所に残っている様だ。
白ずくめの集団が王族に傅いている間にそっと紛れ込む事に成功した俺とベニートは目配せすると漸く授かる場所の内部に潜入するんだとひそかに興奮した。
衛生管理者に指示を受けた第一陣が内部に入って行くが、俺たちは最後尾についた為まだ動けない。
しばらくすると、第一陣が透明の箱に小さな何かを入れたものをうやうやしく持って現れた。それが数人出てくると、次に二人がかりで、見たこともない銀色と赤色の硬い素材の物体に車輪が二つ付いた物を運び出してくる。透明幕を空気で膨らませた袋で包んであった。浮いている。あれは一体何だろう?車輪が付いているところから推察すると異世界の荷台か乗り物だろうか?…どこに乗るんだ??
「最終班入れ」
ハッとすると、もう動き始めていた。慌てて後をついて歩く。
授かる場所の入り口まで数歩。
いよいよ中へ…
「おい!お前!」
急な後ろからの掛け声にビクッと震える。立ち止まるが振り向く事が出来ない。
「お前だと言っている!」
後ろからの大きく諌める男の声に生唾をゴクリと飲み込む。こんなに早くバレるとは…
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