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俺の顎と唇にガツンと当たったのはあいつの後頭部だ。だからこの帽子を調べると、(この前に縫い付けてある部分も何故厚く硬いのか良く分からんが)後頭部に来るこの布のどこかに…あったこれだ。指で触ると、とても硬い金属のかたまりを見つける。一部が尖って突き出ている。
「お前のコレが当たったんだよっ!」
帽子を突き出してやる。
すると、あいつは自分の帽子を覗き込むように身体をこちらに近付けてきた。
フワッとハルヴァの様な甘い匂いが鼻先をかすめた。
「ごめ…」
ドクッ…
気づいたら先に手が出ていた。
何故か、ふいに俺を見上げたあいつの視線に俺は…一気に血が滾ったのだ。
持っていた帽子の硬い部分があいつの頬に命中して勢いよく横に吹っ飛び倒れ込んだ。身体に巻きついていた鞄が勢いよく倒れる音と大きなガッと床に頭を打ち付けた音もした。
痛そうに呻きながらのたうつ男を呆然と見下ろす。
…こんな。
こんな馬鹿みたいな話があるか?わざわざ俺を逃がさない様に瞬間移動まで使い、いざ召喚したらしたで俺の花嫁は現れずに男が出て来ただと?
何故だ…?
何故、アズランリヴス は俺にコイツを掴ませたんだ?
姿見程の大きさだった靄はいまでは小さく揺らめき、白い光はすっと消えて、金色の靄も後を追う様に鏡の中に収まいっていった。
それでもタペストリーの女はまだこちらを見下ろしている。俺はギリッと睨み上げる。
手に力が入り持っていた帽子の硬い部分がミシミシと音が鳴り響く。
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