後悔の夜

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足が勝手に後退りしていく。今にして思えば召喚する者達はきっと儀式に関する全ての知識を事前に伝え聞き学んでいたのだ。その中には花嫁と二人きりで無事に過ごす為に知っておかねばならない事や極めて重大な要項などを充分に理解して臨んでいた筈だ。 それに対して、ジェドは全くもって認識不足であった。考えると次々と疑問が湧く。花嫁を召喚した後の二十日間の巣篭もりの意図は?どうして花嫁らはこちらの言葉が話せるのか? 授かる場所(アズランパラム)にしてもそうだ。残り三枚のタペストリーがある意味は?あの壁際の溝を流れていく水路は何故そこにあるのか?そしてあの場所に居なかった王太子達はどこに消えてしまったのか? 肖像の女はジェドを見つめるだけで何一つない説明しなかった。 ジェドが犯した罪を例えてみるならば、父親の運転を見て自分も出来ると見様見真似で車を走らせ老婆を轢いた男の子や、仔猫を拾って帰り母親に見つからないようにタイマーのしかけてあった炊飯器に仔猫を隠した女の子に準じる。 共通点は無知から引き起こした最悪の惨事。 この子達は二人とも泣きながら同じことを言ったのだ。 『ごめんなさい。だって知らなかったの。』 けれども、知らなかった事が言い訳になるだろうか? 今から起こるであろう事を想像してしまい、顔面蒼白になり背中に震えが走る。 何でも小器用に出来たジェドは常に他人の能力の優劣を自分と比較しては舐めた態度を取ってきた。その余裕のある態度こそ、人から憧れられる格好いい男の姿だと思っていた。 生まれてから一度も心から反省した事もなく、逆に常に自分が正しいと人にあれこれ指摘するくらい自尊心と虚栄心に溢れていた。 もうこれ以上、この場所にいる事が出来なくなり、王族の誇りも男としての自尊心も全て投げ捨て、勇気のない未熟な若者に成りさがった。未熟さゆえに、他に助けを呼ぶ事を躊躇し、【黙って逃げ出す】というとても格好の悪い、最低最悪な選択を選んだのだった。 ここからジェドの後悔の日々が始まるーー
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