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などという、まったりとしたモノローグを展開している場合じゃなかった。これからバイトに行くのもあるけど、それ以上に来週の実技テストが問題だ。毎度毎度追試を食らいまくって、担任とはすっかり顔馴染みになってしまっている。苦笑いとともに発された『十年に一度の(マイナス的な意味で)逸材』というありがたーいお言葉は絶対に忘れることはないだろう。
とはいえ、俺一人では万事休すといった具合なので、ここは姐さんに相談するしかない。どうせ今日も暇だろうから、時間はあるはず。
よし、と気合を入れる。自然と足が速くなっていく。
煉瓦色の壁が特徴的な平屋の事務所が見えてきた。屋根の辺りに「請負屋」と書かれた看板が掛けられている。それこそが俺のバイト先だ。この一帯は大通りから外れていて、ひと気が少ない。今日も相変わらず閑散としている。
事務所のドアを開ける。カランカラン、と鈴の音が出迎える。玄関でスニーカーを脱ぎ、廊下を歩いてそのまま奥の応接間へ。
中央にはワインレッドのソファーがテーブルを挟んで向かい合わせに二脚置かれている。そのうち一方のソファーに座って、優雅にティーカップを持った姐さんがくつろいでいた。紅茶の匂いが俺の鼻先をくすぐる。なんて甘そうな匂い。
「お疲れさまでーす。結羽、出勤しましたー」
「おう、お疲れさーん。今日もよろしくー」
軽い調子で挨拶すると、雑な返答が飛んできた。
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