第一話 日常

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 窓から帰ったみのりを見送って、簡単にチャーハンで済ませた夕飯の片付けをして風呂に入った。 「はぁ……」  湯船に浸かりながら考えてしまう。  久住の言っていたこと――言葉にしなきゃ伝わらない、か。出来たらとっくにしているが、そう簡単に言えないから苦労している。  ……いや、別に苦労はしていないか。  面倒なことが面倒とは思えない関係ってのも、まぁわかる。口ではあれこれ言いながらも、やっぱり頼られるのは嬉しいし、喜ぶ顔が見られればそれだけでも良かったと思えるし。  だが、久住とは反対の状況ではあるし、同性と異性の違いもあるが――仮に告白したとしても同じ関係に戻れるとは限らない。俺が振られたとしても久住の幼馴染のように掌を返して悪口を言い触らしたり嫌いになることは有り得ないと思うが……断った側はどうだろうな。  絶対に元に戻れる保証は無いし、一度でも気持ちを伝えてしまえば必ず変わるものがある。 「面倒だなぁ」  そう思っても、考えれば考えるほど厄介だと感じるが、それ以上に頭に浮かぶ表情でこちらまで口角が上がってしまう。  多分、あいつは俺のことを親友だと思っている。それはそれで心地良い関係だと思っているが、もしも、あいつに恋人が出来たら? まぁ、相手にもよるってのが本音だが……考えただけで胸が締め付けられて、喉が詰まる。  笑った顔も、怒った顔も、拗ねた顔も、悩んでいる顔も、理不尽に不機嫌になるところも、ギターを弾く姿も、何もかもが。  本当に――大好きが過ぎる。  昔は他の男と少しでも仲良くしていると嫉妬みたいな感情が湧き上がっていたものだが、最近ではそうでも無くなってきた。おそらくはあいつの中にある俺の立ち位置が変わらないことに気が付いたからだ。  幼馴染の、親友。  多くを求めて失うよりは、ただ傍に居られるだけでいいかな、と。  とはいえ、気にならないかと言えば当然、気になる。  俺が告白した時にどんな表情を見せるのか――もちろん、笑顔が見たいに決まっている。でも、それは絶対に叶わぬことだから、この気持ちはどこまでも、俺の心が耐えられるまでは仕舞っておくつもりだ。 「……ん? あいつ、もしかして――」  風呂から上がって、キッチンに向かい冷蔵庫を開ければやっぱりだ。  チョコミントを忘れてやがる。
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