第一話 日常

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 すれ違いざまに聞こえてきた鼻歌に、全神経を持っていかれて一瞬だけ暑さを忘れた。けれど、振り返ることはしない。親の影響か知らないが、良い音を聞くと無意識に耳を傾けてしまう。まぁ、偶にあるし、その度に意識していては疲れるだけだ。  溜め息一つ吐いてコンビニへと足を踏み出せば、服を掴まれていることに気が付かずに襟が首に食い込んだ。 「っ!」  振り返ってみれば先程すれ違った女子が食べ終わったアイスの棒を銜えながら両手で掴んでいたシャツの裾を放して笑顔を見せてきた。 「あ、やっぱりそうやった。ダルさんやろ?」 「ダルさん? え~っと……」  見覚えのある顔と雰囲気、それに京都弁、か? 「うちのことわからん?」 「あ~、たしか同じクラスだよな? 名前は……く、くずみ……なんとか、だっけ?」 「久住楓。気軽に楓ちゃん、って呼んでもええで?」 「ああ、うん。久住さん。なんか色々訊きたいけど、ダルさんって?」 「ダルさん? ほら、うちって二年から転入してきたやん? やから覚えやすいように同学年の人にあだ名つけてん。いつも怠そうにしてるから、ダルさん。本名は~……え~っと……?」  首傾げんのかよ。まぁ、こっちも覚えてなかったわけだが。 「別にいいよ。藍原里桜だ」
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