第一話 日常

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 名乗ったのはいいが、久住は首を傾げたまま笑い出した。 「ん? ……もしかして――」 「うん、知っとった。実は前から仲良くなりたいって思っててん。よろしくな?」  なんで俺なんかと、と言いたいところだったがとりあえずは差し出された手を握っておいた。すると、握りながら俺のことを上から下へ、下から上へと値踏みするように視線を向けてきた。 「なんだ?」 「ん~、どこ行くんやろ、って」 「コンビニ」 「じゃあ、うちも付いてく~」  何故だ。まぁ別に構わないが。  いい加減、この暑さの中で立ち止まって話しているのも耐え兼ねて歩き出すと、宣言通りに付いてきた。 「本当に付いてくるんだな」 「ついでやし。ほら見て? さっきのアイス、当たり付きでもう一本って」 「当たりね」  理由なんてどうでもいい。とりあえず今は暑さしか感じない。 「そういや里桜って彼女とかおらんの?」  唐突だし、もう呼び捨てだしで距離感ゼロか。 「いねぇな」 「へ~、意外。モテそうやのに。いたことは?」 「無い。別に告白されたこともねぇし」 「ふ~ん……そういう考え方なんや。あかんで里桜。女の子からの告白を待つんやなくて自分から行かな。男の子なんやし」 「いや、そういうのに男かどうかも関係ないだろ。好き同士なら勝手に惹かれ合うだろうし、わざわざ――」 「ちゃうねん。女の子はな? 言葉が欲しいねん。『好き』でも『大好き』でも『愛してる』でも『ずっと一緒に居ようね』でも、どんだけくさい台詞でも言葉にしてもらわな伝わらんねん」 「……面倒臭くね?」 「当たり前やん。でもな? そういう面倒臭いことが面倒じゃないと思えるようになることが人を好きになるってことやと思わん? 男の子にしても女の子にしても、な?」 「まぁ、わからないこともないが」  面倒なことが楽しいって思えることはある。とはいえ、久住ほど達観してはいないが。  会話もそこそこにやっとコンビニに着いた。たかだか十五分が地獄の道程だったな。 「アイス交換してくるな~」 「ん」  別に報告は要らないが、俺も頼まれた物を探すとするか。
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