4.はじめての世界

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 収録本番が始まる。司会者とトークをしてから歌を披露するという流れだ。晴夜は自己紹介だけで、その他は全て光が話した。その姿からは緊張はあまり感じられない。隣で悔しいがすごい奴だと晴夜は改めて感じていた。  トークが終わり、歌のスタンバイに入る。ステージの前にはペンライトを手にした女性が多く集まっていた。その景色は春に経験済みだった。しかし、その前後で大人が慌ただしく動いているというのは初めてだ。 「足、引っ張るんじゃないぞ」  緊張をほぐそうとしているのだろうか。自分のためだと言いながら、光は周りを優先してしまうところがあるのを晴夜は分かり始めていた。研修生時代、教育係のようなポジションにいたのが影響しているのだろう。光の余計な気遣いに、鼻で笑う。 「お前が俺の足、引っ張るんじゃねえぞ」  今日は2人とも緊張している。お互いのことなんて考えていたら確実に失敗に終わるだろう。自分のことをまず考えなければ。 「それではポラリスのお2人で、今週発売のデビューシングル『Shining Smile』です。どうぞ」  MCの声が聞こえた。一瞬の静寂の後、耳につけたイヤーモニターからイントロが流れ始める。目を閉じ、深呼吸をする。やってやろう。光の方へと手を揺らすと、こつんと光の手が当たった。
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