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「晴夜、あんた最近ひどい顔してる」
数日後、雑誌撮影の帰り道、車を運転している金田がバックミラー越しに晴夜の顔を覗いた。
「ひどいって?」
「なんていうか」
「腑抜けてる」
背後から聞こえた声に振り返る。晴夜は反論しようとしたが、今日一日を思い出して口をつぐんだ。この日の撮影は自然体というテーマだった。何も繕う必要はなく、特に難しいことも要求されていなかった。しかし、晴夜の写真を撮ってもカメラマンは首をかしげるだけで、ただ過ぎた時間と晴夜の写真データが増えるばかりだった。もちろん、この日も光はあっという間に撮影を終えている。
あの生放送からこれまでに事前収録の歌番組もいくつかあった。が、生放送以前のようにほぼやり直しなく終わることはなかった。ラストに近づくと歌い出しの一音がすぐに出なくなっていた。
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