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公園を出た後、春の夕焼けに染まる県道沿いの帰り道を、隆志とちづるは並んで歩いていた。
道中、北風が何度も音をたてて二人に吹きつけた。
隆志は時折寒そうに手に吐息を吹きかけていたが、ちづるは全く寒そうな仕草をしなかった。
「お前、寒さに強いんだな。」
一旦立ち止まってマフラーを巻き直しながら、隆志はちづるを見て感心したように言った。
「寒さには、強い方かもしれません。」
ちづるはそれを手伝いながら少し微笑った。
「そうなのか。なら、何であの時倒れていたんだ?」
マフラーを直すと、隆志は不思議そうに尋ねた。
するとちづるは少し俯いて、
「…あの時は、すごく疲れていたので…。」
始めて会った時のような小声で答えた。
「そうか。まあ疲労プラス寒さには誰も叶わないだろうからな。」
隆志は笑ってそう言うと、再び歩き出した。
ちづるも表情を戻し続いた。
その後、二人が家の近くにまで戻った時、
「そうだ、」
隆志が思い出したようにちづるに言った。
「お前、苗字どうする?」
「苗字、ですか?」
妙な表情をしたちづるに、隆志は説明した。
「今日会った朝也、伸太郎、カオリ以外の人には、お前の事は自分の従兄妹だと紹介するつもりだ。だから念の為、お前に親戚の苗字をつけようと思ってるんだ。」
「…そうですか。」
不思議そうに頷いたちづるに、隆志は腕を組んで言った。
「自分も大分考えたけど、きりがないからお前に決めてもらう。…豊田と達川、どちらの苗字が良い?」
隆志の問いに、ちづるは少し考えてから答えた。
「日野が良いです。」
「日野?」
驚いた隆志に、ちづるは笑顔で続けた。
「私、この町に長くいます。その間、苗字だけでも隆志さんと同じでいたいのです。」
ちづるの言葉に、隆志は少し思考しやがて、
「分かった。」
笑顔で頷いた。
「今日からお前の名前は日野ちづるだ。いいな?」
「はい!」
ちづるは満面の笑顔で頷いた。
寒気の中、暖かい風が吹いた気がした。
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