第1話『出会い』

2/3
111人が本棚に入れています
本棚に追加
/607ページ
寒空の下、隆志は少女を背負い自宅へ急いだ。 自宅に着くとすぐに、少女を毛布にくるみ熱いお茶を出したりと介抱した。 しばらくすると、少女は少し元気を取り戻しのか、血色が戻ってきた。 少女の容態が落ち着いたのを見て、隆志はまず自己紹介した。 「自分は日野隆志。日野市の日野に、タカは隆盛の隆、シはこころざしだ。現在この家に一人で住んでいる。」 自己紹介を終えると、隆志は少女に尋ねた。 「どうしてこんな寒い中、公園で倒れていたんだ?」 毛布にくるまったまま、少女は視線を下に向け、小さいが澄んだ声で答えた。 「…道に迷って…疲れきってしまって…。」 「道に迷った?どこに行こうとしてたんだ?」 「…。」 その質問には答えず、少女は俯いた。 「…まあいい。家はどこなんだ?」 「…ないです。」 少女は俯いたまま答えた。 「ない?」 怪訝な表情を隆志は浮かべた。 「…はい。」 「おい、真面目に答えてくれ。」 「本当なんです…。」 少女は俯いたまま繰り返した。 隆志はやれやれと頭を掻きながら、質問を続けた。 「名前は?」 「ちづるです。平仮名三つです。」 「苗字は?」 「…ありません。」 「…お父さんとお母さんは?」 「…いますが、会えません。」 「はあ?」 おかしな返答の連続に、隆志は遂に呆れた声を出した。 そんな彼に対し、ちづるは顔を上げて、真面目な口調で続けた。 「私は、この世界で一人なんです。」 (…こいつ、頭おかしいのか?家出か、それとも記憶喪失か?…) 心を落ち着かせようと一口お茶を飲んでから、隆志は頭を抱えた。 隆志が頭痛そうに思考していると、 「あの、日野隆志さん、」 再びちづるが真面目な口調で言った。 「もし良かったら、私を一定期間家族にしてくれますか?」 「は?」 再び呆気にとられた隆志に、ちづるは表情も真剣にして続けた。 「私、この町に長くいます。この町でやらねばいけないことがあるので‥。よろしいでしょうか、隆志さん。」 「…あのなあ…。」
/607ページ

最初のコメントを投稿しよう!